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Aeonnous教授の隠逸生活と意見

読書日記 「空海百話」(佐伯泉澄著)

弘法大師空海は、日本の文化史の中できわめて突出した存在、天才そのものでした。

 

当時、アッバース朝イスラム帝国とならんで世界の最大の先進国であった唐帝国の文明を短期間で習得し、しかも、独自の学説を形成するに至ったということは、他の遣唐使の秀才連よりもさらにスケールが大きかったと言えるでしょう。

 

仏教学において緻密な解釈を行い、真言密教を大成したことは勿論、漢詩文を論じた「文鏡秘府論」などは、現在でも中国本土で学術的な評価は高いし、その書道作品も、高く評価されています。土木や暦法などの自然科学分野においてももちろんでしょう。

 

そうした空海の名言百則をあつめたのが、佐伯泉澄師の「空海百話」であり、難解な真言密教の内容を、親しみやすく、わかりやすく記しています。これは、師が一般への法話のために広報紙に連載したものを編集したものであるからですが、その中身については引用の処理も含めて学術的にも十分裏打ちされているのは、さすがは大徳の作品といえるでしょう。

 

ディレクターズチョイスということで、お気に入りの名言をあげると、それは同著223ページに収録されている空海のことばです。

一念の浄心は宛(あたか)も帝網(たいもう)のごとし。
両部界会、何ぞ影向(ようごう)したまはざらん。
一刹(いっせつ)の深信は、なおし珠玉のごとし。
十方の諸仏、何ぞ証明(しょうみょう)せざらん。(念持真言理観開白文 全集二・一八六)

帝網というのは、印度の神話で、インドラの宮殿にある宝石をちりばめた網で、それがお互いに映じてキラキラとひかるものです。それと同様に、一瞬でも、心がきれいになれば、それには真実の世界である曼荼羅そして十方の仏たちが顕現するのです、というこれは神秘主義ですが、西洋の「モナド」の思想よりも数百年早いと言えます。

人は、モナドのように、閉じた独立した球体ながら、なぜ他者や大自然と共感が生じるのでしょうか?

空海の思想は、個人主義が進む現代人にとっても非常に有益だと思います。

 

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