aeonnous’s blog

Aeonnous教授の隠逸生活と意見

”よい円安”?その2

前回のこの題の投稿から50日がたって、さらに、1ドルは135円を上回りました。

円安について政治や報道でも議論がおこなわれていますね。

ただ、「よい円安」、「悪い円安」という非常にざっくりとした議論がまだまだ行われています。もうすこしきめ細かく議論しないと、粗すぎるのです。

 

「よい円安」とは、そもそも何なのでしょうか?

経済学的に言えば、貿易については、円安は、日本にとって、「交易条件の悪化」にほかなりません。その意味においては、「悪い」のです。

輸入でいえば、1ドル100円で買えたものが、135円になってしまうわけです。

輸入でいえば、完全に不利であることはわかりますね。

 

政府やマスコミの刷り込みで、円安は輸出に有利じゃないの、という反応がありそうですが、「交易条件の悪化」についていえば、以下のようになります。

 

すなわち、国内価格100円のものをその価格で契約して輸出して、1ドル100円なら、1ドルくれたのが、1ドル135円になれば、74セントにしかなりません。これ、有利な商売ですか?

 

海外価格が1ドルなら、それに応じて135円に値上げしてもらえばばいいじゃないか、というかもしれません。その会社が独占的なサプライヤーであればそうできるでしょう。しかし、国内で過剰生産、過当競争が行われていれば、すぐに同業他社様にお株を奪われますね。135円に値上げしたと同時に、120円で「がんばれる」会社に仕入れをもっていかれます。しかも、同業他社様は、国内だけでなく、お隣の国も含めて世界いたるところにあります。よって、なかなか国内価格は為替程はあがりません。これを弾力性といいますが、現在、日本でデフレが続いている状況で、円安になるとは、こういうことですね。

 

「よい円安」は、過去の僥倖だった

この「よい円安」という貿易経済学の法則にあてはまらない不思議な事象は、まさに過去の僥倖だったわけです。すなわち、日本の高度経済成長期、アメリカの覇権と冷戦構造そして欧州の戦後復興という巨大な需要が生じるなかで、日本は工業化を推し進め、供給を拡大でき、資本蓄積をおこなえたわけです。70年代オイルショックにもみるように、世界はインフレで進んでいったわけで、日本も例外ではありませんでした。

 

「よい円安」論がおこったのは、1980年代、冷戦末期、プラザ合意によって円高方向に舵をきったところで、いわゆる「円高不況」が生じたところでした。それまでの円安による経済成長をよしとする学説が生じ、学術的な「円高論争」が日銀と東大教授の間でおこなわれましたが、いまから思うと本当になつかしいですね。「円高は交易条件の向上であり、『円高不況』は政策があれば乗り切れる」と学者が政府に直言批評する勇気と良心をもっていた時代のおはなしです。

 

歴史は、「円高不況」をのりこえ、日本が蓄積した円の資本の国際資産評価をたかめることによって、資産効果によって景気回復から未曽有のバブル経済になっていくわけです。国際競争力が日本の産業に十二分にあったころの話ですが、あらゆるセクターがバブルの処理を二重三重にもあやまって「平成大恐慌」から「失われた30年」に苦しんだわけです。

 

この10年来の「円安誘導」は日本経済の復活につながったか?

統計がすべてをものがたりますね。

経済政策の最終目的は、国民生活の向上にあるわけで、そのためのGDPなわけです。

今世紀に入って、国民が自由に使えるお金である可処分所得それから消費が低迷していることは、政府の統計でもあきらかです。客観的に見て、「円安誘導」は、交易条件の不利化を通じて、国民の窮乏化につながったといわざるを得ないです。

 

日銀が金融緩和をいくらしても、開放経済、すなわちお金とものの動きが自由化された国の経済では、インフレになりようがありません。

 

株式相場があがったではないか、という言い方がされますが、資本や貯蓄は成長している、ということは、とりもなおさず、貧富の差がとても拡大しているということにほかなりません。だれのための「よい円安」かといえば、海外金融資産をもった人たち、すなわちリスクだらけの外貨資産がある人たちにほかなりません。その代償は、国民がもっている円資産の目減りなわけです。バブル期と逆回りの逆資産効果は、今後、一層の日本国民の窮乏化につながっていくことでしょう。

ジニ係数ではまだまだ日本の貧富の差はましだ、という統計もありますが、これは所得統計だけですから、たとえば企業経営者や大企業正社員が享受している企業年金・医療ふくめた福利厚生や交際費や社宅などフリンジ・ベネフィットやそのほかの特権などははいっていませんね。ジニ係数だけで言い切るのは、日本国内の不均衡という実態を隠蔽することにほかなりません。

 

日本は、国のかたちを大きく変えました。80年代までの世界の工場といわれた貿易立国から、バブル期の世界最大の債権国となりしばらく投資のあがりからくる経常収支黒字国、また、現在は貿易収支は赤字になってしまい、円安によって世界経済に占める地位も大きく低下し、経常収支という過去の蓄積のあがりを食いつぶしていくしかないのです。貿易立国の夢にもどるには、道は遠すぎます。

 

日本経済の再生のカギはのこされた資本をいかに活用するかにあるわけです。それを必要以上に安売りしてはいけません。